七尾・一本杉通りの老舗和菓子店 花月が大切にしてきたこと
「どこに出しても喜ばれる一箱でありたい」ということ
石川県七尾市・一本杉通りの老舗和菓子店「御菓子処 花月」は、おかげさまで創業130年を迎えます。
明治の終わりにこの通りの一角で暖簾を掲げてから、七尾の街の移り変わりとともに、日々、和菓子を作り続けてきました。
130年という時間の中には、忘れられない出来事がいくつもあります。
そのひとつが、七尾を代表する銘菓として、皇室への献上菓子にお声がけをいただいたことでした。
このコラムでは、
- 献上という機会が教えてくれたこと
- 創業130年のあいだ変わらず守ってきた「ものづくりの姿勢」
- そして、これから先の七尾と花月について
少しゆっくりとお話ししたいと思います。
130年のあいだに、ひときわ緊張した日──皇室献上という出来事
130年という長い時間を振り返ると、戦争や震災、時代の変化など、さまざまな出来事がありました。
そんな中で、七尾の老舗和菓子店として特に緊張した日のひとつが、「皇室献上」の日です。
- どんなお菓子をお届けするのか
- 材料の選び方はこれで良いか
- いつも通りの仕事を、いつも以上に丁寧にできているか
一つひとつを、普段以上に何度も確認しながら、釜の前に立ち続けた時間は、今も
鮮明に記憶に残っています。
とはいえ、特別な儀式のためだけに、「いつもと違うお菓子」をつくったわけではありません。
むしろ、能登・七尾の和菓子として、胸を張ってお届けできる一箱にしたい。
それが何よりの願いでした。

三度の献上菓子「袖ヶ濱」
献上という経験が教えてくれた、当たり前の大切さ
皇室献上と聞くと、とても特別な出来事のように感じられるかもしれません。
実際、花月にとっては大きな節目でした。
ただ、その経験を通じてあらためて感じたのは、
派手なことよりも、「当たり前のことを、当たり前にやり続ける」ことの大切さです。
- 良い素材を見極めること
- 豆を一釜ずつ、状態を見ながら炊き上げること
- 形や焼き色、包装まで含めて、丁寧に仕上げること
これは、献上菓子だから特別に気をつける、というものではありません。
130年のあいだ、七尾の皆さまや、観光や仕事で七尾を訪れる方々にお出ししてきた和菓子・手土産の一つひとつにも、同じ姿勢で向き合ってきたつもりです。
献上という機会は、その「当たり前」をもう一度見直す、とても大切なきっかけになりました。

130年続く「日常」と、特別な一日のあいだにあるもの
皇室献上のような特別な日は、そう何度もあるものではありません。
むしろ花月の仕事のほとんどは、
- 毎朝の仕込み
- その日の天気や湿度を見ながらの調整
- 一つずつの成形や包装
といった、地味で、地道な作業の積み重ねです。
けれど、その「日常」がしっかりしていなければ、特別な一日にだけ急に良いお菓子を作ることはできません。
130年という時間は、そうした「なんでもない日々」の連なりそのものでもあります。
- いつものお茶の時間に添えられる一個
- ご近所へのちょっとした手土産
- 週末のご家族団らんのおやつ
そうした日常の場面にも、皇室献上のときと同じ気持ちでお菓子をお届けしたい。
それが、七尾の老舗和菓子店として、花月が大切にしてきた姿勢です。

130年記念を迎えた今、あらためて思うこと
創業から130年。七尾の街も、一本杉通り商店街も、大きく姿を変えてきました。
- 交通手段や観光スタイルの変化
- 働き方・暮らし方の変化
- 能登が抱えるさまざまな課題
時代に合わせて変えてきた部分もあれば、あえて変えないで守ってきた部分もあります。
その中で今、あらためて強く思うのは、
「花月の和菓子を通じて、七尾と能登の良さを静かに伝え続けたい」
ということです。
皇室献上や創業130周年は、その象徴のひとつにすぎません。
大切なのは、その出来事に恥じない毎日を、これから先も続けていくことだと感じています。
これから先の、七尾と花月と和菓子と
130年という節目は、決して「ゴール」ではなく、あくまで通過点です。
これから先の七尾・能登がどのように変わっていくのか、私たちにもすべてを見通すことはできません。
それでも、
- 七尾に来てくださる方の旅の記憶に残る一箱
- 七尾に暮らす方の日常に寄り添う一個
- 大切な場面にそっと添えられる一包
そんな七尾の和菓子・手土産を、もう少しだけ先の世代にも手渡していけるように。
創業130年の節目に立ちながら、あらためてそう心に刻み、日々の仕事場に向かっていきたいと思います。
七尾を訪れたとき、もし花月のお菓子を手に取っていただけることがあれば、
その箱の中には「味」だけでなく、130年分の七尾の時間も、少しだけ詰まっている。
そう感じていただけたら、これほど嬉しいことはありません。

